フィールドエッセイ「旅と自然の心象スケッチ」 第1877回


遠くより眺むればこそ白妙の・・・・・



謹賀新年
2022年(令和四年)を迎え
皆さんのご健康 ご多幸を お祈り申し上げます。
本年もどうぞ宜しくお願いします。


昨年12月には
6年振りに都心でカラスの個体数調査を行いました。
調査には54名の方に参加していただきました。
年末のせわしい時期に、ボランティアで
ご協力をいただき誠に有り難う
ございました。

1985年以来ずっと継続しているカラス調査、何とか実施できてホッとしています。
調査結果は都市鳥研究会の会報 Urban Birds に掲載予定ですが
あまりにもの激減したのに驚いています。
カラスの世界に何が起こったので
しょうか・・・・・

そして
6年振りと言えば・・・、
昨年開催されたのが第18回ショパン国際ピアノコンクール、これまでになく注目され、話題になりました・・・、
日本人としては、2位に反田恭平さん、4位に小林愛実さん、そして二次、三次予選に挑戦した個性豊かな若者たち・・・・、盛り上がりました。
しかも、一次、二次、三次、そしてファイナルの演奏や採点表が公開されのですから、もう話題沸騰です。
採点結果に納得できる人、出来ない人・・・、マスコミやネット上では騒然となり・・・、我が家でも・・・
ポーランドの●●さんの演奏、最もショパンに近い・・・・
「ショパンの魂を奏でていたのに・・・、なぜ・・・?」
「ファイナルに残れなかった
のはなぜなの・・・?」

そんなこと、
私に問われても・・・
困惑するばかり・・・・、です・・・・
ウグイスの囀りの優劣くらいは見当がつきますが・・・、ショパンはムリ・・・・
優勝したカナダ国籍のブルース・リウさん、二位の反田恭平さん、三位の小林愛実さんの演奏も聴きました・・・・・、が、それよりも
私にとって興味深かったのは、名古屋大学
医学部学生の沢田蒼梧君の演奏でした。
子どもの頃からずっとピアノを指導してきたという先生に
「三次予選の前にどんな言葉をかけましたか・・・?」
マスコミ関係の人の質問の意図は
どんな指導をされたのか?
であったようです。

以下は先生のコメント

ショパンコンクールを受けるくらいのレベルになると
先生からあれこれと指導されてどうなる・・・、というものではありません・・・
自分で課題を見つけ、自分で自分を磨こうとする・・・・
自分を客観視し、俯瞰できる・・・そういう能力がある
指導者ができることなんて限界があります・・・・
教えられるものもあれば、
教えられないもの
もあります・・・・・・・


といった意味合いの
言葉でした。

そう言えば
スケートの羽生結弦さん、現在はコーチはつけてないとか・・・・
将棋の藤井総太君の師匠もまた、「教える」なんていうレベルではないことを師匠が一番よく知っている・・・とのこと。
それでも師弟関係が成立している、というところが何とも不思議、興味深いところです。
そのときの師匠の役割とは一体何なのでしょうか・・・・?
もう教えることはない、にも関わらず師匠である
教えることを越えたものとは何なのか・・・・
おそらくそれは、「理解者」である
ことではないでしょうか・・・
藤井君の全てを
知り尽くして
いる

自分のことを
乳飲み子のころから知っている
父母、祖父母・・・、そして叔父・伯父・叔母・伯母・・・・の存在・・・
総理になった田中角栄も、ノーベル賞を受賞した利根川進さんも、私ども庶民もまた、
子どもや孫が誕生しました、病気や怪我が治りました、孫が高校や大学に合格しました・・・・、
何かを伝えたい時に、本当に聞いてもらえる人がいるのか、いないのか・・・・
そうした人間関係は、職場ではなかなか得にくいもの・・・フリーになって
退職後の人生にあっては最も重要なもの・・・・
母を語る時の田中角栄の目に
涙が光っていたことを
思い出します。

もう教えることは何一つないのに、
師弟関係が成立している・・・・、その奥深くにあるものは何なのでしょうか・・・・
その解の一つが 「理解者であること」
私なりの解釈
です。

ショパン国際コンクール
反田恭平君は「音楽を学ぶ人を育てたい」
角野隼人君の「垣根を越えたジャンルへの挑戦」
そして、医学を学び、「医師でありながら音楽と共に歩もうとする沢田君・・・・」
コンクールなので順位がついてしまいましたが、だれも個性的で輝いており、
その人生に順位などあろうはずがありません。

ピアノやヴァイオリンの演奏を
スポーツのように点数化して序列をつける・・・、
しかも、ショパンの誕生したポーランドの国境をはるかに越えてグローバル化した今日・・・
ポーランド人による最もショパン的なピアニストがファイナルに進めなかったことも
大きな時代の流れなのかも知れません・・・・、
神前に捧げる大相撲も国際化により
強ければいいじゃないか・・・・
そんな横綱を誕生させて
しまったことを思い
出します。

前書きが長くなってしまいました・・・

2022年1月5日
今年の最初の鳥見は、KKYの三人で筑波山に出かけました・・・、
山部さんの鳥発見力と人脈の広さ、小松さんの緻密な企画と計画に助けられ、
2022年の鳥見がスタートしました。

山頂付近に生息しているであろう
カヤクグリ、ミヤマホオジロ、ハギマシコ、カシラダカ、ルリビタキなどの冬鳥を期待しつつ
総武線~武蔵野線~つくばエクスプレス~筑波シャトルバス~筑波山ケーブルカーを乗り継いで
まずは筑波の山頂の一つ、女体山の
山頂に立ちました。

眼前には筑波のもう一つの頂である「男体山」、
樹林に覆われた斜面が山裾に広がり、遠く関東平野の彼方には日本アルプスが・・・・・
アルプスの南には雪をいただいた真っ白な富士山が・・・
東京とおぼしき当たりにはスカイツリーや
新宿副都心のビル群も・・・・


筑波山(女体山)から正面の男体山を、
さらに遠くには、小さな三角錐の富士山を望むことができました・・・


視線を東京から千葉へ、さらに東へ
眼下には霞ヶ浦が銀色に輝く鏡となり・・・・
その霞ヶ浦の彼方には陽に赤く染まった太平洋が続きます・・・・
よく見れば鹿島工業地帯の煙突の煙りが・・・、利根川河口付近の風力発電の風車までもがみえてきました。
北には日光連峰の男体山が、真っ白な雪に覆われて輝いていました。
まさに一望のもとに見渡せたのでした。

足元に目を転ずれば
大きな岩やら石が ンゴロンゴロ・・・・
のんびりとハイキング気分・・・、というわけには行きません。
遠くにみえる優雅な富士山の姿もまた、8合目、9号目付近で見上げれば、岩や崖が ンコロンゴロ・・・
ものごとは、ほどよく距離をおいて眺めることも大事とか・・・・
外山滋比古先生のエッセイにありました。

遠くより眺むればこそ白妙の富士は富士なり、筑波嶺もまた

女体山から男体山への途中、「がま岩」や「せきれい石」などに出会いました。
「せきれい石」の由来などをあれこれと考えながら、双耳峰のコル、御幸ケ原を目指しました。
「カタクリの里」で、鳥を探している鳥見の人が二人・・・
「鳥が少ないね・・・、下の道にミヤマホオジロが
いるんだが・・・・」

稜線から数分下ったところに
男女川の源流、湧水が流れ出ていました・・・
飛び散った水がすっかり
凍っていました。



源流の水が凍って白く光っていました。

筑波嶺(つくばね)の 峰より落つる 男女川(みなのがは) 恋ぞつもりて 淵となりぬる
(陽成院)


凍てつく氷ですが・・・
溶けて流れて、恋焦がれる淵となり・・・、百人一首の時代から有名でした。

その源流を求めて飛来するウグイス、アトリ・・・
5羽~6羽のアトリの群れが飛び立って、深い樹林の奥に消えていきました。
待つこと20~30分、再びアトリがやってきました。
水を飲み、水しぶきをあげ
水浴に余念があり
ません。

そのとき撮ったのが下の写真です。



水浴するアトリ、雄の冬羽のようです。

画像をパソコン画面で拡大・・・
「おや・・・? これは・・・?」 思わず図鑑と見比べてしまいました。


広げた翼の肩のあたりの色彩
カワラヒワのように「黄ばんで見えました。
肩の内側に「黄色い羽」などあったかな・・・・? 図鑑では分かりません。
写真をとった水場は、紫嶺杉という樹齢800年ものスギの大木の根元の近くでした。
薄暗かったこと、羽ばたいて振れていたことなどが原因して
黄色みを帯びたのでしょうか・・・・・・・?
新発見なのか勘違いなのか・・・?
今度アトリをみつけたら要注意
死体を拾ったら絶対に
チェックする・・・
つもりです。

広場の北側の草つきにも
いろんな小鳥が集まっていました。
シジュウカラ、アトリ、ミヤマホオジロ・・・・、そっと小道を歩いて見つけたのは・・・
地面におりて採餌しているのはヤマガラ・・・、低木林の林床に積もった落葉を
嘴でひっくり返したり、頭部を落葉に突っ込んだり
そのカサコソという音がなんとも心地よく
耳に響きまました。



ヤマガラがじっと見つめているのは、落葉の隙間の中のようです。
静寂の中にじっと一点を見つめるヤマガラ・・・・
筑波山の森の中の一コマです。

「コンコン・・・」、 横に張った枝をつつくのはコゲラ
これまた、人の世界とは無縁というか、無関係に生きています。



コゲラの頭部の隙間から、チラッと赤い羽毛が見えました。
写真右→雄の頭部を拡大したものです・・・・
見えるでしょうか・・・「赤い羽」
雄であることの証です。


コゲラにしてもヤマカラにしても、ごく普通の鳥ですが
こうして山中で単独でいきている姿に出会うと
小さな生命体が、筑波の山を
背負っているかのような
存在感のある大きな
生物に見えて
きます。

ルリビタキやミヤマホオジロなどは見ることはできました・・・、が、
期待していたハギマシコ、カヤクグリはお預けとなりました。
全体としてはとても鳥が少なくケーブルカーで
山を下ることにしました。

筑波山神社の裏山で墓地を縄張りにしている一羽の
ジョウビタキに出会い
ました。


墓地のジョウビタキ
苔むした墓石に止まり、卒塔婆にも止まりながら
ここは死者が埋葬されている神聖な場所であることなどお構いなし・・・・、墓石の上で糞をしてるではありませんか。
人のつくりあげた世界を超越している、「もう一つの世界」
それが自然であり、その自然の申し子としての
野鳥であり、ジョウビタキであり
今、私が向き合っている
小鳥なので。



墓石の上に止まるジョウビタキ(雄)
人間のつくりあげた法律、契約、風習、常識、そんなものを超越した振る舞い・・・・、それが Wild Birdです。

「富士」と「筑波」
二つの名峰に優劣をつけてどうする・・・、
富士には富士の素晴らしさが、筑波山にも、 もとより八ヶ岳にも、浅間山にも・・・・
考えてみてください、富士山がどれほど素晴らしく、日本一でも
日本中が、駅前のコンビニのように、富士山だらけになったら
たまったものではありません。

いろんな山かあり・・・・、いろんな生き物がいる・・・
いろんな生き物がいるから、いろんな
生活があり、生活を通して
全てが繋がっている・・・
それが生物多様性
というもの・・・

ショパンコンクールが終わってもなおこの余熱と違和感・・・・、押し寄せるグローバりゼーションの波・・・・
それでいて、やはりコンクールがあるから頑張れる人もいる・・・
話題性があるから聴いても見たくなる・・・・


そしてリフレイン・・・
富士は日本一の山、「不二の山」を筑波より遠望し・・・
「山高きにして貴からず」 ・・・
それぞれの個性に生きる
若きピアニストたちの
未来に乾杯
です。


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