フィールドエッセイ「旅と自然の心象スケッチ」 第1775回


カワセミ(2)~求愛給餌、オニヤンマのヤゴをプレゼン



新型コロナウィルスのため
人との接触、会話などを極力避けて暮らしています。

家にこもってばかりいではいられないので
日の出前の早朝、散歩しながらツバメの繁殖を調べてみたり
自転車で市内の公園に行って、カワセミの写真を撮ったりしています。
一人で鳥を見ている限り、人と会話することはありません。
「密閉、密集、密接」の三密を避け、なおかつ
マスクをすることにしています。

公園の池のカワセミ
コロナ以前には、大勢のカメラマンがいるので近寄りませんでした・・・、が
有り難いことに、ほとんとカメラマンがやっていません。
外出を自粛しているのかというと、どうもそうでは
なさそうなのです。

写真のみを撮っている人は
何日もカワセミばかり撮影していると、撮り尽くしてしまうようです。
バックに花をいれて撮るとか、雌雄の二羽が並んだ
ところを撮るとか・・・

どんなに美人であっても、
毎日、毎日、同じ写真を撮っていたら飽きてしまう・・・、そんな心理でしょうか・・・?

しかし、何とも勿体ないですね。
カワセミが美しい鳥であろうと、なかろうと
一つの種として鳥の習性、あるいは行動、生態に注目して見ると
それなりに興味深いものがありそうです・・・

コロナの影響で
人影の少なくなった公園で、これぞ幸いとばかりに
そっと、ひっそり、息をひそめてカワセミ・ウォッチャーを続けています。

さて、前置きが長くなりましたが・・・
公園には雄と雌の一番(つがい)がおり、一つの巣穴に出入りし
池の周辺の杭や小枝に止まって、水面下の小魚やエビなどを捕食しています。
この際、「どうしても観察して見たい、写真に収めない」、と思っていたのが求愛給餌です。
雄が、鳥にとって最も大切なもの~食物~を雌にプレゼンとすることによって、プロポーズすることです。

観察していると
求愛給餌が成立するためにはいくつかの条件があることが分かりました。
第一に、公園にカワセミの雄と雌がいること、それもなるべくすぐ近くにいる必要があります。
第二には、雄が、雌が気に入るほどの魚などを捕らえられること。
それなりの稼ぎがあり、漁の技術があることです。
そして第三に、雌雄のカワセミの気持ち
相性が一致することです。

この3つの条件、
クリアーするのは結構大変だと分かりました。
この公園の雄のカワセミ、名前は「市川のじゅんいち君」
(仮名)です。
下の写真をご覧ください・・・・、背や翼、頭部のコバルトブルーの羽、なかなかの男前です。



「市川のじゅんいち君」

じゅんいち君、まずまずの容姿なのですが、
漁の方は苦手なのか、何回も水中に飛び込むのですが、獲物を捕らえられません。
たまたま捕らえても、メダカくらいの小魚・・・、雌に持っていくには見劣りがします。
「何よ、これっぽっちの魚だなんて・・・」、馬鹿にされてしまいます。
じゅんいち君、捕らえた小魚を食べてしまいます。
ただ、じゅんいち君に同情したくなる点も。
漁の技術が下手、というよりも
この公園の池、もともと魚が
少ないようなのです。

稼ぎの悪いのは
じゅんいち君の漁のスキルというよりも、
縄張りの「質」にあるとすれば、それもまた、同情の余地があります。
魚のたくさん生息している池には、他の雄が縄張りを構えています。

一方で、雌の「セミナ (蝉菜) さん」の方はどうでしょう・・・・
池に突き出たミズキの下枝に止まり、じゅんいち君の行動をじっと見つめています。
大きな獲物を捕ったとみるや、大きな声で鳴いて
自分の存在をアピールします。

そしてついに
じゅんいち君が大きめの小魚 (モツゴかもしれませんが・・・) を捕獲
まっしぐらにセミナさんの元に飛んで行きます。
待ちに待った撮影のチャンスです。

「う~ん、残念」、
水面に突き出たミズキの下枝・・・、姿が見えません。
声はするものの、写真には撮れません。

4月16日のことでした。
じゅんいち君が何かを捕らえたらしく、セミナさんが鳴いています。
しかも、セミナさんのいるのは池の中の止まり木
真っ正面から見える小枝にとまって
じゅんいち君を待っています。


それほど大きな獲物ではありませんが・・・・

じゅんいち君としては大変のご馳走・・・・・、
しかも、彼女が呼んでいる声が聞こえてきました。
一直線に止まり木へと飛翔

ようやく、下の写真が撮れました。


右上にいて下を見下ろしているのが セミナさん
左下から食べ物を差し出しているのはじゅんいち君です。

「ちょっと小さいてど、受け取ってもらえるかい?」
「喜んで、いただくわ、有難う。」

(あら、あら、確かにちいさわね・・・、でも、他に彼はいないし・・・)
と言ったかどうか・・・・、分かりません。


さてと、この写真をパソコンで拡大したところ
捕らえた獲物が判明しました。この池で繁殖している「トンボの幼虫~ヤゴ のようです」
魚やエビなどが少ないためなのか、こんなヤゴなんかをプレゼントしているんですね。
大きさからしてオニヤンマか、ギンヤンマかも知れません・・・。
その後も何日か通いましたが、なかなか
求愛給餌のシーンに出会えません。

求愛給餌がなかなか見られない・・・
ということは、繁殖が進んでいない・・・、ということかも知れません。
その原因の一つが、どうも
セミナさんにありそうです。

次回はその問題に触れますが、
その為には「セミナさん」 下の写真がとても重要になります。
その特徴を覚えておいて下さい。


雌のセミナさん、嘴や胸~腹部の色彩が個性的です。

雌のセミナさんの特徴は次の通りです。
上嘴が黒、「下嘴の基部は黒いが中央付近が赤い」
胸から腹部にかけて白色と褐色がマダラ模様になっています。


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