フィールドエッセイ「旅と自然の心象スケッチ」 第1713回


「迎春」
24羽のツバメが飛び交う浜離宮



平成31 (2019) 年
謹賀新年
皆様のご多幸とご健康をお祈りいたします。
本年もどうぞ宜しくお願いします。


元日
孫たちとお節料理を食べ、
いただいた年賀状を拝見しました。
教え子たちもリタイアー、再雇用、嘱託、年金生活・・・
体調を崩された方、入院やら手術をされた方、あるいは親の介護・・・・、など
どの家も、どなたも、何がしらの気がかりなことを抱えながら生きている・・・、我が家、我が身とて同じです。
「普通に生活すること」、「現状を維持すること」、そのことがもう大きな課題です。
それでも、今年も何か良いことがあるかも・・・
と思わせ、希望を懐かせてくれる・・・
それが「新年」という
新しい出発です。

今年もまた、
励まされる賀正を沢山いただきました。
『げんきくん物語』 講談社・青い鳥文庫 (山岸 哲著)  海をわたったコウノトリの大冒険物語です。
今年、傘寿を迎える元日本鳥学会会長の山岸哲先生の著書です。
コノウトリの保護も軌道にのり、次のステップを
迎えようとしています。

『雁よ渡れ』(どうぶつ社)
2006年に出版した呉地正幸氏 (雁を守る会の会長)からは
数千羽のシジュウカラガンが日本に飛来するようになりました、
との便りをいただきました。

『市川市自然環境研究グループ』の活動記録  (山﨑秀雄編著)
市川市の自然保護を担ってきたグループの活動記録であり、貴重な文書が収録されています。
市川市大町の「大町自然公園」や「市川市立自然博物館」などの設立に
このグループが果たした功績は大きいと思います。
中心メンバーであった市川学園の石井信義さん、
代表の岩瀬徹先生らの粘り強い活動を
こうして後世に残そうとした山﨑先生
の執念が稔ったと言えます。
私もグループの末席を汚してきましたが、振り返ってみると
市川市内に自然公園や博物館を
残せたのは感慨深いもの
があります。

『樹木博士入門』(全国農村教育協会)と、
『草花さんぽ図鑑』(仮題、永岡書店)  は、2019年に発行予定のものです。
後者は、今年卒寿を迎える岩瀬徹先生を中心とした村田威夫先生、飯島和子先生など
自然観察大学講師のベテラン講師陣による意欲的な出版で、
NPO法人自然観察大学による監修、というものです。
私もゲラの一部を拝見しましたが、
わくわくする内容です。
ご期待ください。

愛媛県からも嬉しい便りがありました。
『永き遠足』(創風社出版 泉原猛著)
愛媛大学大学院で非常勤講師をしていたとき、お世話になった泉原さんが2016年に出版されたものです。
愛媛出版文化賞受賞。少年期・青年期の初々しい時間を描いた作品だそうです。

石井一孝君からは
ミュージカル『ロミオ & ジュリエット』のヴェローナ大公 役で出演するとの案内がありました。
2月23日~3月10日 東京国産フォーラム ホールを初め、愛知、大阪でも講演が予定されています。
石井君は両国高校の教え子の一人、いろんな舞台をみせてもらいましたが
大スターになること疑いありません
益々の活躍を祈ります。

嬉しい賀正の一つに、
東京新聞の写真部で活躍してきた堀内洋介さんからのもの。
九十九里海岸で撮った「空飛ぶ金魚と珍客オオグンカンドリ」の写真が、東京写真記者協会、一般ニュース部門奨励賞を受賞したとのこと。
空中を金魚と一緒に飛んでいる・・・、何とも不思議な作品です。
最高齢の受賞者だったとのことです。
お目出度うございます。

教え子も50代、60代となり、
「子どもが結婚しました」、「長男(長女)のことろに子どもが生れ、ジジ(ババ)になりました」
「双子が生れ、いっぺんに二人のジジになりました」

浅川浩二先生からの川柳
先生曰く、川柳ではなく 「川柳もどき」 なのだそうですが、
先生の川柳が、新年の楽しみの一つとして我が家ではすっかり定着してしまいました。
両国高校の元教頭で、その後、都立小松川高校の校長でもあった浅川先生、自慢のテノールの喉と川柳・・・、卒寿を過ぎたとは思えません。
ここ数年の作品の中から、いくつかを紹介させていただきます。

ああいえばこういう仲で五十年
長風呂に「生きているの」かと妻の声
自分だけ笑いころげているさんま
教え子の喜寿をば祝う米寿の師
ゴミ荒らす烏を追うはひとクロウ (飽食のツケ)
孫娘(まご)爆睡じいは不眠に悩まされ
横揺れをめまいかなぁと気にかかり (震度2)


そこで、俄かに
にせ川柳もどき」 を・・・

貧しくも富裕も同じ 消費税 (公平な納税?)
保育費は等しく無料 富裕層 (平等な恩恵?)
犬猫が増えて少子化進みけり (ペットブーム)
はしゃぐのは司会者ばかりNHK (最近のマスコミ)
健康のためなら死んでもいいと言い (健康ブーム)
(愚雪)


1月2日
義弟夫妻の車に同乗し
お世話になった親戚に挨拶まわり
帰りに、諏訪神社に参詣、家内安全を祈願。甘酒をいただき、「破魔矢」を購入しました。

神頼み五円にしては長時間 (愚雪)

1月3日
成田に行こうか、帝釈天にしようか
それとも明治神宮、不忍池の弁天堂にしたものか・・・、
迷ったものの、放鷹術を見に浜離宮恩賜庭園に行ってきました。
市川駅から新橋駅は、総武快速でわずか30分足らずなのですが・・・
もうここは日本離れの別世界、ガラス張りの高層ビルがニョキニョキと林立しています。


新橋駅周辺の超高層ビル群

いったいここがどこなのか、
「汽笛一声新橋を はや我汽車は離れたり 愛宕の山に入り残る月を旅路の友として」
つい最近まで歌い継がれてきた鉄道唱歌ですが、明治維新からの激変には驚かされます。
平成も終わり、ますます昭和が遠のき、新しい世代が活躍する時代となりました。
ここはあたかも都市文明の終着駅のような雰囲気ですが・・・・
果たして人にとって快適な空間であるのかどうか
つい疑問に感じてしまうのは、
昭和の世代のせいなの
かも知れません。

そう言えば
「高橋まつり」さんという、若くて優秀な
一人の女性を自死に追い込んだというブラック企業電通ビルも、頭上にそびえ立っていました。
地上に出ると、そこはもう浜離宮恩賜庭園。徳川将軍が鷹狩りやら鴨猟を楽しみ、
江戸湾品川沖で捕れたクジラを鑑賞したのもこの庭園です。
ここに立つと日本の近現代史が
一気に丸見えです。

さてと、
前置きが長くなりましたが
ここからが本番です。

南国からツバメが飛来するのは
都心では春は4月、早くても3月というのが相場です。
ところが、「ここ浜離宮では「24羽ものツバメが飛び交っています」、えっ、本当ですか・・・?
無風快晴とはいえ、大寒波が到来し、北陸や北海道では大雪
都心でも初氷の張るような寒さですよ。
本当ですかね・・・?


庭園内の燕のお茶屋

ここは、「潮入りの池」に面した「燕のお茶屋」
将軍が、池の風情を眺めるという目的でつくられた平屋の小さな建物、贅沢の極みです。
靴を脱いで、一歩中に入ると、畳の部屋の中央に将軍が座る高座があり
水面に当たった太陽の光線が反射して障子に映り、
室内をマダラに照らします。

その部屋の長押(なげし)のあちこちに
飛翔するツバメがちりばめられているのです・・・
金属でできたツバメが、自在に飛び交うシーンが部屋中に満ち溢れて
これはもう、ツバメの乱舞であり、春の到来です。


精巧につくられたツバメの作品、釘を隠すという役割を遥かに超えた芸術品です。


長押の釘を隠すためのツバメ

「いや、驚きました、ところ狭しとツバメが飛び交っています」
「ツバメというよりも、ツバメ以上にツバメを表現したツバメたち」
飛翔するツバメ、一つとして同じものはなく
光線によって真っ黒から銀白色まで
刻々と七変化します。

解説版によれば
銅板を裏側から叩いて立体化し、
溶液(薬品)で処理してこのような色彩にしたといいます。
それにしても、トンカチで叩いた荒々しい釘を露出させず、こうしてそっとツバメで覆ってしまう・・・
日本文化の奥ゆかしさ、繊細さ、職人魂が感じとれます。
今年の正月、いいものを見せていただきました。
浜離宮恩賜庭園に大感謝です。

諏訪流放鷹術
これも見応えがありました。
隣接した高層ビルから放った鷹が、一気に急降下、放ったハトを見事に捕食しました。
参加者による体験コーナー、至近距離からみたオオタカ
そして鷹匠たちの伝統的な衣裳・小道具
正月ならではのイベントでした。


ビルの屋上から鷹を放った瞬間


諏訪流18代鷹匠の大塚紀子さん
放鷹保存会のメンバーの半数以上は女性、伝統の技を引き継いでいます。


家内と二人
将軍が食べたという「雑煮」を食べながら
「合気道」の実演を見学・・・、闘う競技とは異なり専守防衛なんですね。
柔道がスポーツ化した中にあって、合気道の魅力を
初めて知りました。


満開のホトケノザ

放鷹や合気道の会場に隣接した「菜の花畑」では
蕾が膨らんで、春を迎えようとしています・・・、が
その根元ではもう、ホトケノザが
満開でした。


唐沢孝一のページに戻る
エッセイの目次に戻る
ご意見・感想などはこちらへhttp://www.zkk.ne.jp/karasawa/bbs1/imgbbs.cgi