フィールドエッセイ「旅と自然の心象スケッチ」 第1702回


オオグンカンドリに魅せられて・・・



珍鳥だから追いかけている、のではありません。
どちらかと言えば、私は、ごく普通の鳥、スズメやカラス、ツバメといった身近な鳥に関心かあるのです、が
台風20号、21号の前後に、いろんな迷鳥が日本に飛来している可能性があるのでは・・・、飛来というよりも、飛ばされてきている・・・、
いわゆるtyphoon bird がみられるのではないか・・・・・、と予想していました

そんなときに、カラサワールドの掲示板に、行徳の野鳥観察舎の野長瀬さんより、オオグンカンドリが飛来していること
銚子の方で怪我をしてオオグンカンドリが保護され、治療後に九十九里の方に放鳥したこと・・・・、などの投稿をいただきました。
さらに、その後、9月8日(土)、松丸一郎さんが、飛翔するオオグンカンドリの写真を投稿、何と、目の前を飛んでいるのを標準レンズで捉えているではありませんか・・・。
そんなこともあった9月9日、松丸さんに案内してもらい、太平洋に面した海岸でオオグンカンドリを観察することができました。
これまで何回か、コスタリカなどでグンカンドリを見たことはあるのですが、どれも遠いところを飛んでいるものばかり・・・・、
今回のように、至近距離からの観察は初めて、飛翔時の姿があまりにも美しく、すっかり魅了されてしまいました。
熱帯や亜熱帯の海鳥が、本州の千葉県の海岸で観察できるなんて、信じられないことです。
空を飛ぶために、これほどまでに拘っている鳥・・・・・・、いるんですね。
とにかく、飛ぶために生れてきたような、
飛ぶのが楽しくて楽しくて仕方ない、
そんな雰囲気の鳥でした。

9月9日
やや南風の強い日でしたが
それでも、天気は晴、12時20分ころから観察を開始し
13時45分ころに引き上げましたが、その間ずっと飛び続けていました。
一度も地上に舞い降りるとか、電線や屋根に止まる・・・、ということはありません。

前置きはこのくらいにして、下の写真をご覧ください。

正面から見たオオグンカンドリ
翼を開いた時の長さを「翼開長」
(よくかいちょう) といいますが、どのくらいの長さだと思いますか・・・?
計測した訳ではありませんが、図鑑などをみると、
「205~230㎝」、とあります。
2m以上もある・・・、ということは、大人が両手を広げた長さよりも
さらに長い、
ということになります。


正面から見たオオグンカンドリ「う~ん、翼がなが~いですね」

翼開長が長い割りには、
「頭」は小さく、「翼や背腹の幅」がとても薄いことが分かります。
尾羽もあるのですが、この写真では一部分のみなので、後ほど別の写真で見てもらうことにします。


次は、「後ろ姿」です。
鳥を観察する時は、正面から見たり、横からの姿を観察するのが普通ですが・・・
たまたま撮影した写真の中に、「後ろ姿」が写っていました。
正面から見たものと基本的には同じなのですが・・・
しかし、後ろ姿はどこかちがいますね。
人でも、後ろ姿が魅力的な人が
いますが、鳥でも
同じようです。



後ろから見たオオグンカンドリ

左右の翼が、体のつけねから出て、上に凸型に盛り上がり、その後はなだらかにす~と横に伸びています。
全体としては左右対象、綺麗なシンメトリーが基本的な構造のようです。
風を受け、細長い翼が微妙によじれているのが読み取れます。
風の力を翼に受け、風を巧みに操っている姿が見えます。
また、「翼が細く尖っている」、ということは
高速で飛翔できる・・・、急回転も
可能、ということです。


ほぼ真下から見上げた時の形
に注目です。
全身が黒色であり、胸にある大きな白斑若鳥のマーク~がよく目立ちます。
そして、もう一つ気になるのが、翼を広げた時の長さ「翼開長」 に対して、体長 (嘴の先端~尾端までの長さ) がとても短いことです。
下の写真で測定してみると、
翼開長は体長の約2.4倍もあります。


真下から見上げた時のオオグンカンドリ

「翼が長くて、尾が短い、空飛ぶ動物」
と言えば、皆さんはどんな動物を思い出しますか?
「尾が長く、翼が短い鳥」 と言えば、サンコウチョウの雄、オナガ、エナガなどですが・・・・、その逆なので・・・・
思いつくのは、アマツバメ、オオミズナギドリ、アホウドリ・・・、哺乳類ではコウモリの仲間など・・・。
高速で飛翔する、急旋回が可能、風を利用して滞空時間が長い
といった特徴が思い浮かびます。
グンカンドリの捕食方法や
生活と結びついて
きそうです。

長すぎる翼は
強風などを受けた時に、翼の基部に負担がかかってしまい
骨折してしまわないかと心配になります・・・、が
下の写真をご覧ください。


左は翼を左右に広げて伸ばしたた状態です。
そして右は、翼を折ってたたんだ状態です。

翼の長さを自在に変形させ
風をたっぷり受けとめて停空飛翔をしたり、翼を縮めて強風を防いだりできます。

飛翔時の姿勢で面白いことを見つけました。
首の長さが、状況によっての大きく変化することです。
下の3点の写真をご覧ください・・・・、縮めていた首をす~と伸ばすことが分かります。


3枚の写真は、左側から右側へと、縮めていた首をす~と伸ばしたことが分かります。

ここで注目したいのは、最も左側の写真です。
顔の後方は肩の羽毛の中に埋没した状態です・・・、首がないようにも見えるのですが
首がないのではなく、折り曲げられて肩の付近に収納されているのです。
首はなく、顔の後方を肩の羽毛が包み込んでいるので
風の抵抗を少なくした時の飛び方です。

さて、もう一つ注目すべきは「尾羽」です。
前掲の写真をもう一度ご覧ください。


カッコイイ尾羽にも注目です。
尾羽の両端に入った白線、デザインとしても優れものです。



開いた時の尾羽です。

閉じた時の尾羽です

翼に比べれば短いものの
形は立派な燕尾型であり、二股に分かれ、フォークのような形をしています。
尾羽を広げたり、閉じたり、捩じったり、実に複雑に操作し、大空を自在に飛び交い
巨大なツバメとなって、高度な飛翔を可能にしています。

それだけではありません、燕尾の両端に入った白線
白線の意味するところは知りませんが、
これほとかっこいいデザインは
ありません。

オオグンカンドリは
あたかも凧のように、下からの風をうけながら
一カ所に留まったまま、停空飛翔をしていますが、これって何のための飛翔んでしょうか・・・?
何のために空中に留まっているの ・・・・?、それが分かるのが下の写真です。
頭上に接近してきた時のオオグンカンドリの目に注目です。
じっと、下を見ていることが分かります。


写真 眼は、じっと下を見ていることが分かります。
ひょっとして、私のカメラのレンズを見ているのかも・・・・


「下を見ている」
という事は、海面を見つめている・・・
海面を見ながら、食物になる魚などを物色しているようです。

こうなったら、是非ともオオグンカンドリが魚を捕食するシーンをみたいものです
魚を発見すると、オオグンカンドリは急降下し、水面すれすれにいる魚に接近・・・、
そして、頭から水中にダイピングして魚をゲットするのでしょうか・・・?
それとも、ミサゴのように足爪で引っかけるのでしょうか?
この機会に、是非とも捕食シーンをみたい
と願ったのですが、なかなか見せて
くれません。

しかし幸運にも、たった一回でしたが、ふわふわっと水面近くまで急降下し
収納していた首を伸ばし、細長い嘴で海面をつついたのです。
何かを捕らえたようにも見えました。

下の写真がはその時のものです。



海面に嘴を差しこんで獲物(魚)らしきものを捕ろうとするオオグンカンドリ
この写真、いま一つピントが甘かったのが残念です。

海面近くにいる魚を、嘴でひっかけて捕らえるシーン
実は、松丸さんが、9/8日にもっと鮮明な写真を撮っており、プリントしたものを見せてもらいました。
その素晴らしい写真、皆さんにも是非みていただきたいと思い、お願いして送っていただきました・・・、以下の①~③の3点です。


①海面近くを滑空してきました・・・ ②海面近くの餌を嘴でくわえようとしています。


③鉤状の嘴の先端で魚をしっかりとくわえています。よく見ると、魚の目まで鮮明に写っています。
魚は海に捨てられたイワシのようです。
(以上の①~③の写真 松丸一郎さん撮影)

写真をみると、飛びながら首を伸ばし、鉤状に鋭く曲がった嘴の先端で魚を引っかけて捕らえています。
海中に潜って魚を捕らえたり、普通の水鳥のように水面に浮かぶこともありません。
というのも、グンカンドリの羽は油分が少なく、防水性がありません。
そのため、水に潜ることも、浮くこともできません。
「万一水に落ちると溺れてしまう」
と言われています。

このエッセイ、途中まで書いたところで
この夏にブラジルにバードウオッチングに出かけた山部直喜さんから、次のようなメールをいただきました。

「グンカンドリも都市鳥?」
添付の写真をご覧ください。
2018年7月29日、サンパウロの海岸です。
レストランから捨てられた魚のアラに群がるクロコンドルの群れ。
その群れに交じるダイサギ、ミナミオオセグロカモメ、その上を飛ぶアメリカグンカンドリ(5,6羽いました)。
グンカンドリのイメージが変わりました。
山部直喜


山部さんが撮影したアメリカグンカンドリの下の写真を見てびっくりです。
5~6羽のアメリカグンカンドリが魚のアラを狙っているのです。
撮影した山部さんが立っているのは海岸の道路
沢山の人が行き来し、車も走っています。
クロコンドルやダイサギ、セグロカモメ
などが魚のアラを食べるのは
分かるような気がしますが
しかし・・・?



手前は、海岸で魚のあらに群がるクロコンドル、ダイサギ、ミナミオオセグロカモメなど。
円内は、上空から餌を狙っている
アメリカグンカンドリ
(サンパウロの海岸にて、山部直喜氏撮影)

たまたま千葉県の海岸に飛来したオオグンカンドリ、
日本では珍鳥であり、カメラマンが殺到してしまうような珍しい鳥なのですが、
南米サンパウロでは「都市鳥」かな・・・?
というのですがら驚きです。

珍重だから追いかける人もいますが、
今回、その気持ちが多少は分かるような気がしました・・・、が
「写真を撮ったのでそれでお終い」、といって引き上げてしまうのは「もったいない」ような気がしました。
折角のチャンスを活かして、新しい知見を深められれば
それに越したことはありません。

お礼
遠くの海岸まで案内していただき、貴重な写真を提供していただいた松丸一郎さん、
サンパウロで撮影したばかりの未発表写真を提供していただいた山部直喜さん、有難うございました。



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