フィールドエッセイ「旅と自然の心象スケッチ」  第1172回

ユキホオジロとミユビシギ〜冬の九十九里浜〜

2010年2月16日 ASKの会


 

「こんにちは、どうですか、いますか・・・?」(カラ)

「いや、だめだね。10時ころに1羽出たらしいけど、(私は) 見てないんだ・・・」(男性)

「そうですか・・・。ところで、どちらからこられたんですか?」(カラ)

「オオサカ・・・です。」 「えっ、大阪ですか・・・! 」

 

驚きました、

「九十九里にユキホオジロが出た」 という情報は、一瞬にして地球を一回りしてしまう勢いです。

わざわざ関西からやってきた人がいる時代です。

 

このゴミだらけの砂浜に飛来した1羽のユキホオジロ

その写真を撮るためにわざわざ大阪からやってきたという男性が一人。

その他にも3名の方が珍鳥を探していました。

 

珍鳥を見たいという欲求、 抑え難いものがあります。

ユキホオジロは、冬鳥として北海道などの北国で越冬する冬鳥ですが、

千葉県での記録はありません。

 

私もまた、ユキホオジロを見たいという気持ちは同じじです・・・、そこで

村のことなら何でも熟知している青山村長さんに案内してもらい、こうして九十九里にやってきた一人です。

この日は、ASK会の2010年はじめてのフィールド、ということもあり、

須田会長さんも群馬からの参加です。

 

寒風が海岸の砂を舞いあげ

容赦なく体に吹きつけて、立っているのが辛くなってきました。

しかも、いつの間にか雨も降り出し、今にも雪になりそうな気配です。

ふと、波打ち際の方を見ると、海面は大荒れ。次から次へと、重苦しい鉛色の波が打ち寄せてきます。

その波打ち際にずらりと並んだカモメ類、オオセグロカモメ、ウミネコ、ユリカモメなどの群れ。

もうそれだけて、自然の厳しさきがひしひしと伝わってきます。

 

そっと接近したつもりでした、が

30〜40mまで接近したところで次々と飛び立ち、海岸線にそって北の方へと飛び立ちました。

そのカモメ類の群れに混じって、50〜60羽のシギ類がひとかたまりになって一緒に飛んでいきます。

「ハマシギかな、いや、ミユビシギかも・・・」

素晴らしい光景です。

 

セグロカモメ、ユリカモメ、ウミネコなどの群れに混じって、

ミユビシギの群れが、横風に抗して白く輝きながら飛んでいきます。

 

いまにも雪になりそうな、荒れ狂う九十九里海岸、

その鉛色をした海面がうねり、波立ち、押し寄せて来る、

こんな荒々しい自然のなかで生きる海鳥たち・・・、「自然を愛し、自然と共に生きたい・・・・」

そんな観念的な自然など吹っ飛ばしてしまう、目の前のリアルな自然。

「これこそが本当の自然なのだ」、と自らに言い聞かせ

寒さに震えつつ、シギの群れを見送りました。

 

冬の海 シギ舞う浜の 砂塵かな

(風雪)

 

普通の鳥が、ごく普通に生きていくこと、その厳しさ

平凡な人がごく平凡に人生を送ること、その難しさを野生の生物たちが教えてくれます。

珍鳥を見に来て、結局は普通の鳥の生きざまに感動してしまった、

これぞ典型的な外山流セレンディピティー

と言えるかもしれません。

 


セレンディピティー

については、来月発売の「バーダー」4月号の連載、「唐沢流自然観察の愉しみ方」で執筆しました。


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