フィールドエッセイ「旅と自然の心象スケッチ」  第1100回

モリアオガエルの木登りの術

新しい発見の悦び


 

「自然観察というのは奥が深いですね」

「そうですね、同じ自然に出会うことはまずないし、

出かけるたびに新しい感動が湧いてくるし、飽きることがない・・・、まあ、人生そのものかもしれませんね」

「それだけ奥が深い、というのか、人があれこれと想定した世界を遥かに越えた世界、といったところでしょうか・・・」

 

5月30日(日)、清澄寺の池で

これまでも何回も観察したことのあるモリアオガエルの集団産卵なのですが、

ささやかながら、新しい発見がありました。

 

本堂の脇にある防火用水

ここがモリアオガエルの集団産卵の場所です。

ご承知の通り、このカエルは、樹上の枝に卵塊を産みつけ

白い泡状の中で孵化したオタマジャクシは、水面に落下する習性があります。

 

防火用水の水面の上にのびたタブノキや、

岸辺のツツジなどに卵塊が産みつけられています。

用水を囲むように鉄骨の杭があり、針金で柵がしてあります。

 

下の写真は、

別の角度からみたものです。

 

岸辺の低木(ツツジなど)の小枝にある、白っぽくみえる塊がモリアオガエルの卵塊です。

また、水面に覆いかぶされるかのように、一本の大きなタブノキの枝が見えますが

その枝先にも、また、10mもの高さの枝にも卵塊があります。

 

卵塊がちょっと小さいので見えずらいかも知れません。

岸辺のツツジの枝に接近し

中を覗くと・・・

 

1匹の雌に2匹の雄が抱接しています。

 

さらに別の小枝では

 

1匹の雌に4匹が抱接し、そのすぐ下でも3〜4匹の雄が群がり

まさに集団産卵の真っ最中です。

 

ツツジのような低木の場合は、

幹や枝伝いにのぼっていく、ということで納得できます、が

タブノキのような高木では、枝先へどのように登っていくのでしょうか・・・?

根元から樹皮にへばりついて枝先まで登るとすると、12〜13mは登らねばなりません。

いくら木登りを得意としてモリアオガエルとはいえ

最初から枝先までを見通して登る・・・

そんなことが出来る

のでしょうか。

 

カエルが高木の枝先へ

どのように到達するのか・・・、

ちょっと気になっていた・・・、その時のことです。

一匹のモリアオガエルが、池のほとりの鉄骨にとりついていました。

「ひょっとしたら、鉄骨の先端から、池面に伸びた小枝に飛び移るのではないか・・・?」

 

結果は、予想通りでした。

 

下の写真をご覧下さい。

 

写真は、「右から左へ」、とご覧下さい。

鉄骨の先の付近から水面に伸びたタブノキの枝に飛びついたところです。

 

木登りするモリアオガエル

当然のことながら、樹の根元から幹をのぼって、枝先で産卵するものとばかり思っていました。

もちろん、地上10mを越えるようなところの枝で産卵する場合は、幹伝いに登ったのでしょう・・・、が

この日の観察で、鉄骨から枝先へと飛びつく個体もいる、ということを知りました。

モリアオガエの観察を始めて3年目、ささやかながら、一つの知見を追加しました。

といっても、既に知っている人にはっては、とるに足りないことですが、

大切にしたいことは、私にとっては初めて知り得たということ、

その感動であり、実際にの目で確かめた、ということです。

こうしてモリアオガエルの世界を掘り下げながら

観察の愉しさが増していきます。

 

モリアオガエルの生き方

そのたった一つの種を取り上げてみても、知っているのは氷山の一角、知らないことだらけです。

モリアオガエルが産卵しているツツジの小枝の近くでは、クロスジギンヤンマが羽化の真っ最中でした。

岸辺のコケの上では、2匹のツチガエルが見つめ合っています。

カエルを撮影していると、足元からヒル(蛭)

のぼってきました。

 

クロスジギンヤンマも、ツチガエルにしても、ヒルにしても、

それぞれ独自の生き方があり、その生態を追い求めたら、もう際限のない世界が広がっています。

清澄山系全体では、もう計り知れないほどの生物たちの、独特の生活が満ちあふれ、

その森羅万象に分け入り、生きざまを訪ねてみたい・・・、と思うのですが、

すべてを知り得ることが出来るのか、どうか・・・。

この自然観察の愉しさ、醍醐味、奥深さ、

命ある限り、尽きせんね。

 


〜カラサワールド自然基金より〜

「カエルの絵はがき2009」

皆さんからの協力を得て、1000セットを発行しました、が

2009年6月12日現在、残部はわずかとなりました。

「トンボの絵はがき2008」

残部はありません。


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