フィールドエッセイ「旅と自然の心象スケッチ」  第1056回

メジロの吸蜜

2009年 謹賀新年

〜目標をもたない、という目標〜


 

昨年のエッセイ執筆回数は189回

目標にしていた1000回を越えることもできました、が

「濃度の低い、散漫なエッセイ」が多くなったことを反省しています。

平成21年は、できるだけ肩の力を抜いた内容にしたい

ごく普通の視線で、ごく平凡な生物を

ありのままにウォッチングしたい

そんなふうに考えています。

 

「ごく普通の視線で、ごく平凡な生物」

えっ、それって、「濃度の低い、散漫なエッセイ」 そのものじゃありませんか・・・。

「う〜ん、そう言われるとその通りかも知れませんな・・・」

大逸れた目的など設定せず、金儲けとは縁遠い世界

「腹の足しにはならない」「少しは心の足しになるかもしれない」

そんなところに今年の目標を設定したいと思うのですが

「目標をもたない、という目標」

難しいことですが・・・

 

昨日、12月31日

自宅でバードウォッチングをしました。

ここ毎朝、ジョウビタキが飛来し、マサキの実を食べます。

そこで、2階のカーテン越しに望遠レンズを構え、チャンスを待ちました。

期待して待つのですが、そんな時に限ってなかなかやってきてくれないのが野鳥です。

それでもと思い、絞りやシャッタースピートをしっかり調節してスタンバイ

ジョウビタキがマサキの朱色に光る実をくわえた、その一瞬を、

ライフルの引き金を引くかのように・・・

そんなチャンスを待ちました。

 

と、その時

飛んできたのはメジロでした。

マサキの木のとなり、サザンカの花の甘い蜜がお目当てのようです。

サザンカ、もうとっくに花の季節は終わっているのですが、

遅れて数輪が開花しています。

 

花には最盛期があるものの

よ〜く観察してみると、いち早く咲くものあり、最盛期に咲くものあり、そして季節外れに返り花あり

木全体で4〜5輪、仲間の花とは遅れて咲いているのですが、しかし、自然は温かく迎えてくれています。

「花の数が少ない」、メジロが必ず訪れてくれます。

「残りものには福がある」

との譬えあり。

 

最盛期を過ぎ、これから開こうとしているサザンカの花、

「残りものには福がある」、メジロが訪れました。

 

二階からサザンカの花までの距離、約3m

カーテン越しなので、メジロはまったくこちらを警戒していません。

まずは花をじっと見つ、頭部と嘴の先をぐっと花の中央へと差し込み

その細い嘴の先端から舌をすっと伸ばします。

 

嘴の先端から舌を伸ばして吸蜜するメジロ

 

メジロの舌の先端は、

ブラシ状に枝分かれしており効率的に吸蜜できるのですが、

吸蜜行動は一瞬であり、写真には撮れません。

 

ま、メジロの写真のことはこのくらいにして、

「ジョウビタキが来てくれなかったこと」をとやかく言うこともなく、

メジロと出会えたことに感謝したい・・・

そんな心境です。

 

「そんな心境」と書いてみて、

ふと、学生時代に受講した外山滋比古先生の英文学の講義を思い出しました。

文学とは縁遠い理学部の学生向けに、英語とは何か、欧米人の発想や文化的背景には何があるかを熱く語ってくれた・・・

その中の一つに「フィナーレの発想」がありました。

 

「円熟のない人生は失敗である」

「たとえどれほど序曲がすばらしくても、フィナーレがだめなものは全体がだめなのである」

「英語は冒頭中心主義だが、日本語は有終の美を重んじるようになっている」

そう言われてみると、英文では冒頭にYES NOが明瞭です。

日本語は最後の最後に、YES NOが、

それも婉曲的に・・・・

 

日本語がせっかく有終の美の構造になっているのに

日本人の生き方は、冒頭中心主義そのもの。学校の成績で人生がきまってしまわんばかりです。

若者に負けずに走り、泳ぎ、空を飛び、若ぶってバイクに乗り、ついにはエベレストに登頂したご老人も登場する始末。

そんな若者中心の発想から解き放たれ、肩の力を抜いてみてはどうなのか・・・

「円熟のない人生は失敗である」

 

「年が改まると、一年の計は元旦にありという題目を思い出して、覚悟の新調に及ぶ」

「始めさえよければ、あとはすべて、めでたし、めでたし、とはなりません」

外山先生の言わんとするところ、まだまだ今日的です。

(外山著 『フィナーレの発想』 講談社1979 参照)

 

狭い庭ですが

今年もジョウビタキやメジロ、ヒヨドリやスズメ、シジュウカラも来てくれそうです。

平凡な鳥ではあるが、鳥たちとの会話を通して

願わくば人生の深みを覗いてみたい・・・

「目標を持たない、という目標」

 

本年も宜しくお付き合い下さい。

 


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