フィールドエッセイ「旅と自然の心象スケッチ」 第2000回


フィールドエッセイ 2000回記念
今年はレンジャクの当たりの年~伊東温泉、山中湖、都立木場公園・・・・



「旅と自然の心象エッセイ」
と題してのこのエッセイのコーナーですが、
1998 (平成10) 年9月15日の第一回 に始まり、今回で2000回と相なりました。
まさか、25年間、2000回もつづくとは、自分でも想像すらしていなかったことです。
平均寿命が延びたとはいえ、この5月で80歳、ここまで生きるとは
自分でも想像していなかったのと全く同様に
あっという間に月日は流れ
気づいて見れば
2000回となり
ました

この間、
カラサワールドを開設し、
エッセイのページを提供していただいた佐藤昌信さんには大感謝です。
その後、トラブルのたびに、かけつけてくれました。

困ったことに、私のパソコンのキーボード)は、
Fujitsu の「親指シフト」入力という特殊なものです。
日本語入力スピードは速いのですが・・・、市場のシェアーをすっかり
奪われ、少数派に転落・・・

生産されず、
販売されず、入手困難となり、
利用する人は安部公房と私くらい・・・
その安部公房も1993年には他界してしまいました。
もう、「だれも使っていない」、と思っていました。ところが、
2年ほど前に、最後のキーボード発売という機会がありました。
購入者が殺到、私も将来を考え、
予備を購入しました。

とは言え、「親指シフト」は
日の当たらない狭い谷間に潜り込み、やっとこさ生き延びています。
ようするに、日本語という狭い世界でガラパゴス化が進み
絶滅に瀕しているのです。
一度トラブルが発生すれば
佐藤さんにお願いする
他はありません。

また、これまでエッセイに目を通していただき、応援していただいた、
カラサワールドの会員の皆さんに改めてお礼を申し上げます・・・、
優れた読者なしにライターは存在しません。

2023年までは、
カラサワールドから生態小図鑑を出版してきました。
この1月からは、「エッセイの発行そのもの」が目的となりました。
3月現在、120名をこえる皆さんに会員登録していただいています。
有難いことです。

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第2000回目のエッセイのテーマは、
今シーズンが当たり年のレンジャク (連雀) です。
幸いにも、今年は各地でレンジャクを観察し、新たな発見がありました。
まずは、3月7日~8日に出かけた
伊東温泉での観察です。

伊東の温泉街を流れる大川
その右岸にある音無神社の境内でレンジャクの群れに出会いました。
頭上を飛んで行くひとかたまりの群れを見たとき、ムクドリの群れかと思ったのですが・・・・、
ケヤキの細い枝にずらりととまっている姿を双眼鏡でみて、ビックリ。
頭には冠羽、尾の先端は真っ赤・・・
ヒレンジャクでした。。


ケヤキの枝にとまったヒレンジャクの群れ (伊東温泉・音無神社)

羽数を数えてみると130羽・・・
旅先で、思わぬ鳥に出会えた上に、
私にとっての大きな発見は・・・、ケヤキの冬芽をついばみはじめたのです。


左は、ケヤキの細枝にとまったヒレンジャク、右は、ケヤキの冬芽をついばむヒレンジャク・・・

発見というにはちょっと大げさですが、
レンジャクの食性としては、これまで私が観察したのはヤドリギの果実とリュウノヒゲ (ジャノヒゲ) の果実だけでした。
埼玉県の秋ケ瀬や、千葉市の昭和の森公園、山中湖などで観察したのは、すべてヤドリギの果実でした。
レンジャクという鳥は、ヤドリギを食べる、たまにはリュウノヒゲ も食べる、
そのいらいの知識しかありませんでした。
(文献を調べれば、いろいな
果実を食べているのですが
不勉強がばれて
しまいます)

「レンジャクって、ヤドリギだけを食べているんじゃないんだ・・・ 」

そうと気づくと
なんだか、ひと皮剥けたように、
新しい景色が見えてくるから不思議です。
「ヤドリギやリュウノヒゲがないところでは、どうやって暮らしているのか・・・?」
な~んていう愚問も、一気に解消してしまいました。
木の芽をたべるのであれば
カワラヒワのように
いくらでも食物は
あります。

音無神社のレンジャクですが
しばらくケヤキの冬芽を食べると
目の前の大川に移動し、水を飲み始めました。


川原に降りて飲水するヒレンジャク

ケヤキの芽を食べる
レンジャクを観察して・・・、もう一つ気づきました。
ケヤキの小枝に、常緑の大きな葉をつけた小枝がぶら下がっていました・・・、なんだろうか・・・・?



ケヤキの小枝に絡みついている常緑の小枝・・・

よ~く見ると、ぶら下がっているのではなく、ケヤキの枝をしっかりと巻きついて付着しています。
ケヤキに寄生している宿り木の一種のようなのです。
常緑広葉樹の寄生植物と言えば・・・
オオバヤドリギ」 、熱海の梅林で
観察したことがあります。
レンジャクが種子散布
したものか・・・・
興味あります。

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山中湖の朝比奈邦路さんから
レンジャク情報が入りました・・・、「今年もレンジャクを見かけました」「500羽を超える大群です」
これは行ってみる他はありません・・・、小松雄一郎さんと一緒に
3月12~13日に山中湖に行ってきました。


山中湖湖畔のヒレンジャクの群れ。
ヤドリギの果実に群がっていました。

羽数は14羽・・・、残念ながら、大群は平地に降りたようでした。
ひょっとしたら、伊豆の伊東温泉で出会った130羽の群れは
山中湖から下った群れだったかもしれません。

山中湖では、
アカゲラ、アオゲラ、コゲラ、アトリ、カワラヒワ
ヒガラ、シジュウカラ、ヤマガラ、・・・・などを観察。
さらに朝比奈さんにガンドしていただき、繁殖を開始したカワガラスやミソサザイなどを
観察したのですが・・・、何と、それらの画像が一瞬にして消えてしまいました。
パソコンのどこかにあるのか、ないのか・・・・
それすらも分かりません。

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一方、いろんな方から
レンジャクを観察した・・・、という情報をいただきました。
神奈川県からは鈴木馨さんから、千葉市からは越川重治さんや田仲義弘さんから・・・・。
とりわけ興味深かったのは、3/14、クロガネモチの実を食べていた、という越川さんからのメールでした。

3月15日、この日のは
前々から港区での講演が予定されていました。
しかし、クロガネモチの実を食べているとなれば、何がなんでも見ておきたい・・・・
というのも、クロガネモチの実は、不味くてほとんどの鳥は食べません。
私も、一度、食べてみましたが・・・、もう二度と
食べたくありません。


場所は都立木場公園(江東区) です。
すでにレンジャクの群れは飛び去ってしまったので、場所を公表します。


天気のいい日中は、保育園の子どもたちが
元気に遊んでいる・・・、とても開放的で、にぎわいのある都市公園でした。

レンジャクがいたのは
この広い公園のケヤキの大木でした。
ヤドリギはないので、何を食べているのか・・・、気がかりです。

5~6人のそれらしき人が
カメラを構え、ケヤキの大木を見上げています。
その枝先には、10羽、20羽ほどのヒレンジャクが、小枝の新芽をついばんでいました。
新芽というよりも、芽が展開し、中の葉や花序が見えています。
正確には、花や若い葉 (シュート) を食べている・・・、
と言った方がよさそうです。



ケヤキの枝先で群れるヒレンジャクの群れ 、 ケヤキの花序をついばむヒレンジャク。

群れの中に
わずか1~2羽のキレンジャクが混じっていました。
そのキレンジャクが飛び立った時でした・・・・、(私にとっては) 貴重な1枚となりました。

初列風切羽の先端は「黄色」ですが
次列風切羽の先端は「赤色」です~下の写真の矢印の部分です。


次列風切羽の先端は「赤色」をしています。 (矢印)

実は、この赤い部分は「ろう物質」からできており
キレンジャクの英名 Waxwing の語源になっています。
こういう写真を撮りたい・・・・、と、ずっと願っていたのですが、ようやく撮れました。
ただし、このロウ物質が何なのか、何のためにあるのかは不明です。


もう一つ、レンジャクで発見がありました。
下の写真は、クロガネモチに集まったキレンジャク(中央)ヒレンジャク(左端)ヒヨドリ(右側の葉の奥)です。
この他に、ツグミも飛来してクロガネモチを食べていました。
あれほどマズイ、二度と食べたくない苦い果実を
なぜ、皆で食べているのでしょうか・・・・?



クロガネモチを食べるキレンジャク(中央)、ヒレンジャク(左)、ヒヨドリ(右)

食べものが不足して
止むなく食べている可能性があります。
また、クロガネモチの果実も、あの苦みが消失していることも考えられます。
決心して、一粒、口に入れ、そってかんでみました。
確かにマズイのですが、しかし
もう二度と食べたくない
というほてでは
ありません。

クロガネモチは
他の果実がなくなり、レンジャクなどが飛来するこの日を
ずっと待っていたのでしょうか・・・
だとしたら賢い植物です。
果実の少ない時期
ならば、より遠くへ
運んでもらえる
可能性が
あります。

あくまで、可能性の話ですが・・・

2000回の次は
2001回、そして、その次は・・・・
もうしばらくお付き合いのほどお願いします。



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