フィールドエッセイ「旅と自然の心象スケッチ」  第950回

テントウムシとエサキモンキツノカメムシ

雨の「見沼たんぼ」 観察会


拙筆フィールドエッセイ、950回を数えました。

お蔭様で、6月末には100名を越える方よりエッセイの登録をしていただきました。

「急ぐに道は遠けれど・・・」 という高校時代の校歌の一節がありますが、

人生という旅、もう先を急ぐことなどありません。

 

最近は、声高に

「エコ、エコと叫ぶ」人が増えてきました。

テレビも、新聞記事も、企業までもが大声で「エコ、エコ・・・」と「エコ・コール」です。

「そのエコ、エコと叫ぶのをやめることがエコじゃないの・・・・」

と言いたくなります。

 

毎月送られてくる講談社の読書人の雑誌「本」の2008年7月号をめくっていたら

矢野茂樹氏の「世の中に「絶対」は絶対ないのか」

面白いタイトルに惹かれて読んでいくと、

作家の阿川弘之さんが、娘さんに言ったという次の言葉が印象的でした。

「佐知子、世に中には絶対ということはないのだから、絶対なんてことばは

絶対に使ってはいけないよ

 

奇妙な会話を上げたらキリがありません。

「何と言っても、健康が第一ですね、健康のためなら死んでもいいです」

実際にジョギングし過ぎて死んだ人もいます。

 

さてと、フィールドエッセイ950回

切れのいいところで、久しぶりに公開することにしました。

本当は、締め切った諫早湾の門を開いて欲しいのですが・・・、そのことは置くとして

この5〜6月、埼玉県の「見沼たんぼ」に観察会とその下見で5回ほど出かけました・・・、が

下見の2回は別として、観察会の本番の日は3回とも雨でした。

特に埼玉大の野外実習を行った5月24日は最悪でした。

必死にメモをとろうとする学生、横殴りの雨でメモ用紙は水浸し。

悪天と分かっていて実施したことを反省しつつも、それでも提出したレポートに目を通すと

それなりに要点を捉え、自然観察の視点を学んでくれたのではないか・・・・、

と、半分は期待をこめての印象です。

 

6月22日(日)

自然観察大学の2008年度第2回の観察会

天気予報では午後から激しい雨のとのこと・・・

集合した9時半ころはまだ曇天、何とかいけそうです。

武蔵野線「東浦和駅」駅前に集まったみなさんも、この時点ではまだ傘をさしてはいません。

 

写真は、自然観察大学学長の岩瀬徹先生のご挨拶

 

岩瀬先生の「イデタチ」を確とご覧下さい。

長靴は雨対策、筆者も長靴でしたし、参加者の中にも長靴の人がチラホラいますので特別ではありません。

ではベルトにぶら下がっている「丸くて、金色に光っているもの」

これって何だと思いますか・・・?

 

「ああ、あれか」

と直ぐに分かる人もいるでしょう・・・、が、お若いひとにとっては珍しいかも知れません。

「懐中時計にしては大きすぎるし・・・・?」

「お腰につけたきび団子だろうか・・・・?」

う〜ん、違います。

「ならば、学長の氏名入りの、大きな印鑑でしょうか・・・?」

まったく違います。

夏の蒸し暑い日、フィールドでの必需品なのですが・・・、

この後、直ぐに役立つことになりました。

 

駅前では、繁殖中のツバメについて若干の解説をしました。

「ツバメの最大の保護者はヒトです。と同時に、最大の天敵もヒトです・・・」

要するに、ヒトとの関係が良好に保たれていることが、都市で生き残るために最も重要な事項です。

 

「ヒト以外では、どんなものが天敵になると思いますか・・・?」

「・・・ネコじゃないですか?」

「はい、その通りです。卵や雛が狙われますね」

「では、ツバメをどのように捕まえるのでしょうか・・・?」

6月7〜8日に、安房鴨川で耳にした興味深い話しを紹介しましょう。

「・・・・軒下の巣にツバメが出入りしています、すると、猫は雨樋のところにじっと静止し、

何時間もツバメを観察しています・・・。ある時、一瞬にして、ヒョイと脚の爪でツバメをひっかけてしまいました」

何と、今年はツバメ2羽が犠牲になったとのことでした。

 

「ヘビも卵や雛を襲うんじゃないですか・・・?」

「はい、ヘビも怖い天敵です。ほとんどはアオダイショウです。」

アオダイショウについては、6月に文庫化して出版された『生態と民俗」』(野本寛一著)に

興味深い記事がありましたので、その一部を紹介しました。

(ここでは割愛しますが・・・)

 

見沼たんぼの西縁、竹林の近くのケヤキをぐるりと取り巻いて

熱心に何かを観察しています。

 

ケヤキの樹をとりまき、解説を聞く参加者のみなさん

 

詳しいことは「自然観察大学」のHPに掲載される予定ですが

何と、何と、幹にはビッシリとテントウムシの脱皮殻が付着していました。

その数、400〜500個はあるでしょうか・・・・、地上1mくらいから8〜9mまでびっしりと抜け殻だらけ。

この日、昆虫の専門家が3名も講師陣にいましたが、「こんなの見るのは初めて」とのことでした。

 

(左)テントウムシの抜け殻 (右)抜け殻を観察する参加者と講師の山崎先生

 

この薄暗い林内で

あの岩瀬先生の腰にぶら下がった例の「円形の何物か」が役立つことを知りました。

煙がゆらゆらとでて、蚊を寄せつけません。

蚊とり線香、防虫スプレーよりも効果的でした。

 

テントウムシに続いて面白かったのは

エサキモンキツノカメムシです。それも、卵を守っている雌です。

エサキは、昆虫学者の江崎梯三氏の名、よど号ハイジャック事件の時の江崎機長の兄です。

 

[左]は卵を守るエサキモンキツノカメムシ(雌)、[右]は卵の保護について解説する鈴木先生

 

ミズキの葉の裏に産卵したエサキモンキツノカメムシ

必死で卵を守っていますが、その背にある「ハート型」の文様、造形の妙そのものです。

その文様のあるところは「小楯板(ショウジュンパン)」というそうです。

寄生ハチや寄生ハエなどが近づくと、体を張って抵抗するとか・・・

こうして卵を保護する昆虫は、産卵数は少ないそうです。

それでも写真をみると60〜70個はあります。

 

この頃から次第に雲行きが怪しくなってきました。

人工衛星が順調に軌道を飛んでいるらしく、天気予報が的中します。

水田地帯に入ると、雨足は激しさを増してきました、が

これもまた自然観察そのもの。

雨の中での解散となりました。

 

観察会は終了しても

「自然観察が終わる」わけではありません。

東浦和駅まで帰る途中、芝川を横切ろうとしているカルガモ親子に出会いました。

 

雨の中、芝川をわたる母親と6羽の雛

 

対岸にたどりつくために、いったんは上流へと必死に雛を誘導し、

次に流されつつも対岸へとたどりつきました。

川の流れを計算にいれての川の横断です。

賢い母親に守られ、知恵をつける6羽の雛

一人前になるのはまだまだです。

 


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