フィールドエッセイ「旅と自然の心象スケッチ」  第900回記念号

ヒヨドリの死、そしてオオキンカメムシの集団越冬

尽きない南房総の魅力


フィールドエッセイ、900回を数えました。

この勢いでいけば、年内には1000回になるかも知れません・・・、が

人生、「一寸先は闇」とも言います。

「未来を予測することは不可能である」

『精神と自然』の著者 G.ベイトソンの言葉です。

 

さて、

2008年3月15〜16日

久しぶりに「クスクス会」で南房総へ行ってきました。

クスクス会って? 最近このエッセイを登録さた方には馴染みがないかも知れません。

ちょっと奇怪しくて、「クスクス・・・」とつい笑ってしまうからクスクス会です。

いやいや、そうではなくて、パプアニューギニアに生息する有袋類、あのクスクスに因んだ名前です。

なんのことはない、「KARASAWA 」、「USUI」 、「SARAI」の3名の頭文字をならべてみたら「KUSKUS」になった・・・

まあどれでもいいのですが、とにかく「ネーミング」することによって

新しい意味が生じ、新しい世界が見えてくることもあるかも知れません。

人生を楽しみ、クスクスっと洒落て生きる

我流の生きかたです。

 

今回の南房総の旅

印象的なことが二つほどありました。

その一つ・・・、房総の山中を清和の森に向かっていた時のことです。

「あっ、何か羽毛のようなものが・・・、ひょっとしたら・・・・?」

車での旅では、そんなことが時々あります。

 

車を左端に停め、道におりて振り返りました。

やはりありました・・・、道路の中央に横たわっていたのはヒヨドリのようです。

車に轢かれたばかり、体に温もりが残っていました。

痛々しい限りです。

 

何とも痛々しいヒヨドリ

 

このヒヨドリ

嘴や口元には黄色い花粉がびっしり付着していました。

 

嘴に着いた黄色い花粉

花の蜜を吸っていたようです。

 

そういえば、道路にそってツバキが満開です。

「死の直前までツバキの花で吸蜜していた」

のではないでしょうか・・・

 

咲き誇るツバキの花、この美しさ、甘味な蜜

ヒヨドリにとっては抗し難い誘惑であったに違いありません。

 

この日、ヒヨドリはいつものように

何羽かで飛来し、あの花に1羽、この花に1羽と吸蜜に余念がなかったことでしょう。

と、その時、突然、1羽のヒヨドリが隣にいたヒヨドリに襲いかかりまかした。

驚いて道路に飛び出た1羽の目の前に猛スピードで接近してきた車・・・

やはり避けきれなかったようです。

私の想像にすぎませんが・・・

 

放っとけば、次々とやってくる車に轢かれ、轢かれ、

また轢かれてしまいます。

 

ツバキの花咲く3月15日

道路脇のツバキの木の下に葬りました。

山川草木悉皆成仏

 

もう一つ・・・、太夫崎の別荘付近のオオキンカメムシです。

1月にタブノキの葉の裏にいた集団越冬中のオオキンカメムシですが、

今回はヤツデの葉の裏で見つけました。

 

1枚の葉裏に7匹の集団が越冬していました。

ヤツデの葉を見上げると、やわらかな春陽の温もりが伝ってきます。

 

周辺を調べてみると、合計19匹、

実にカラフルです。

 

朝7時頃

上の写真のように、1枚の葉に7匹いました。

午後にみると、4匹、2匹、1匹というように、分散していました。

気温は4月並の春の陽気、盛んに移動していることがわかります。

このオオキンカメムシ、日本海側の新潟の方にまで渡りをするといわれています。

「マーキングして追跡してみたい・・・」

そんな衝動にかられます。

 

集団地越冬している場所は、

外房の主要道路から旧道に入り、

さらに車1台しか通れない地元の人の道に入ります。

畑の脇の社の樹陰に車を停め、ここからは徒歩になります。

農道をノコノコと3〜4分歩き、海岸まで下ったところに目的地の別荘、クロサギ亭があります。

オオキンカメムシが越冬しているのは海岸に下る手前の小高いところ

人一人が通れるほどの小径が続いています。

 

別荘に通じる小径

ここを通り過ぎると、潮の香りがしてきます・・・

郷里の山村にも似たこの風景、房総で最も好きな小径の一つです。

 

この林縁部のヤツデの葉の裏面にオオキンカメムシが越冬しています。

マテバシイが生え、落葉低木ではイヌビワが多くみられます。

林縁のツル性の植物にも1匹見つけました、が、残念ながら植物名がわかりません。

久保田三栄子さんより、「フウトウカズラ」と教えてもらいました。

有難いことに、こうしてまた一つ知識が増えました。

 

ここまできたので

「クロサギ亭」をちょっと覗いてみます。

オオキンカメムシが越冬地を通りすぎ、海岸へと下っていく石段の上から

クロマツの緑に囲まれた「クロサギ亭」のブルーの屋根が2棟、その背後に

クロサギの生息する磯と内湾が、その対岸に仁右衛門島を望むことができます。

四季折々の表情でクスクス会を歓迎してくれます。

 

石段の上から見渡す早春の「クロサギ亭」

 

梅やツバキ、ネコヤナギの花が咲き、

連れ立って飛来したメジロが吸蜜し、庭ではモンシロチョウが舞い、ウグイスが囀りが響きます。

ミュージカル「サウンド オブ ミュージック」の世界さながらです。

レーチェル・カーソンが夏を過ごしたという、あの

北米東海岸とも重なるイメージ

 

南房総には、多くの人が自然を求めてやってきます。

しかし、「通過するだけの自然・・・・」ということはないでしょうか・・・・

 

時には車を降り

山道に分け入り、磯に立ち、遥かなる太平洋に思いを向けてみる

見えない世界にも目を凝らし、かすかな風のささやきにも耳を傾けてみる。

時には宮沢賢治の「星めぐりの歌」を口ずさんでみつつ、夜空の星を仰いてみる・・・

 

そんな南房総へのクスクスの旅、

初めて参加した2004年3月から、3年。「石の上にも3年」です。

南房総の自然がようやく血となり肉となってきた、

そんな気がします。

 


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