フィールドエッセイ「旅と自然の心象スケッチ」  第729回

新緑の飯能〜天覧山〜多峯主山を歩く

かぶとむし編集委員会による第3回自然観察会


4月29日、みどりの日、かつてこの日、

都立両国高校生物部では、新入生歓迎の野外観察会を行っていました。

ならば青春に戻り、再びの野外観察会を行いたい、やろう、やろうということで

第一回を2005年4月29日「日和田山」、第二回は2006年4月29日「見沼たんぼ」、そして今回が三回目。

金林君の地元である飯能駅に集合し、新緑の飯能〜天覧山〜多峯主山(とおのすやま)を歩きました。

高校のころは16〜18歳、そして今や40代後半〜50代、もちろん還暦を過ぎた元高校生もまじります。

元顧問は薄葉重先生、そして不肖、唐沢です。

 

自然観察会とは、自然を観察するのはもちろんですが

参加者同士の親睦も楽しみの一つ、自然にたどり着くまでが一つのドラマでもあるのです。

昨年は、遠くは佐賀県からも参加がありましたし、月日を勘違いしたりして、

そんなことがまたまた思い出づくりとなったりします。

 

今回は、私自身がポカをしてしまいました。

飯能駅10時集合、ネットで到着時刻を入力し、9時50分前ころには楽々到着の予定でした。

しかも、池袋では予定より15分も早い「所沢駅行き」の急行に乗れたのです。

さてと、下車する駅はどこだったかな? 念のために手元のメモを見ると、所沢駅とありました。

この時点で、奇怪しいと気づかなかったことがそもそもの大きな誤算。

9時25分所沢駅下車、「さてと、一年ぶりに皆さんにお会いできるかな・・・・」

見まわしてもだれもいません。東口と西口の出口があり、どっちなのかも分りません。

変だなとは思いつつ、改札で駅員にたずねました。

「この駅から天覧山には行けますか?」

「えっ、天覧山ですか・・・、それは飯能駅ですね」

 

記憶が危ういのでメモをする、メモに頼るものの、そのメモを間違えて書いてしまう・・・、

「気づかないのは本人だけで、う〜ん、相当重症では・・・?」

そんな恐怖とたたかいつつ、何とか5〜6分の遅刻で飯能駅着。

「すみません、そんな訳で遅れてしまいまして・・・・」

懐かしい面々が温かく迎えてくれました。

 

この日は、総勢17名。

飯能駅からは、市内を歩いて能仁寺へと向かいました。

初めて飯能の街を歩いてみて、昔ながらの商店や酒蔵などの建物にびっくり。

小江戸とも言われている川越の街並みにも似てついつい興味津々なのですが、

街並みに見入っていると目的地には到着出来ません。

 

能仁寺には葵の紋どころのある灯籠がずらりと並び

寺院の規模がいかにも大きいことに驚きました。建物といい、樹木といい、規模が大きいのです。

明治維新のとき、官軍と戦った「飯能戦争」あった舞台なればこその大寺院。

ニホンミツバチが盛んに出入りしているスギの大木は、

かつてはムササビの巣であったとか・・・・。

 

能仁寺周辺は

沢あり、林あり、民家あり、なかなか面白いところです。

沢ぞいの道に入ると、いきなりカワトンボの仲間に出会いました。

最近、カワトンボ類の和名が一転二転し、これは「アサヒナカワトンボ」ではないか(?)、と思います。

全身が金属質のグリーンに輝いています。

 

シダの葉に止まるアサヒナカワトンボ(♀)

 

樹林内を歩くこと20〜30分、

ゴツゴツした岩場に羅漢の石仏が多数並んでおり、もう一息で天覧山の山頂です。

急峻な岩の階段を登ると、一気に視界が広がり、新緑の山々の彼方、純白の富士山がみえてきました。

山頂はもとより、はるか裾野の方まで真っ白な雪に覆われた富士山に感激。

ウグイスの囀りやイカルの鳴き声を耳にするや、心が清まる思いでした。

 

真っ白な富士山、天覧山の山頂より

 

山頂からの視界は実に素晴らしいものがありました。

雲一つない快晴、眼下の飯能の街はもとより、関東平野を一望、新宿副都心のビル群もうっすらとみえます。

下記は197mの山頂で撮った記念写真です。

 

天覧山山頂 (197m) での記念撮影 (田中君提供)

 

山頂の展望台は、しっかりとコンクリートで固められていましたが、

山小屋の方は昔ながらの建物、テーブルと椅子、エプロン姿の女性、背負子・・・

「う〜ん、懐かしいものばかり、昭和30年代の再現ではないか・・・」

一人できたら、ここで時間を過ごしたかもしれません。

 

昭和30年代の生活を彷彿とさせる山頂付近の山小屋

 

天覧山から一気に坂を下って、多峯主山を目指します。

途中、真っ白で繊細なマルバアオダモの花、新緑によくにあうヤマツツジの花

コバノガマズミ、ヒメハギ、カンアオイなどの花に出合いました。

 

左-マルバアオダモ、右-ヤマツツジ

 

花をみれば花を、鳥がいれば鳥を

蝶が飛べば蝶を・・・、とにかく何が飛び出ているか分りません。

分りませんが、新緑の低山であれば、おおよそのことは予想できます。

しかし、天覧山の北方に湿地があり、小さな水溜まりがあるとは予想外でした。

薄葉先生が、マルバアオダモの小枝を折って水面に浮かべました。

下の写真をよ〜くご覧下さい・・・、水面が少し変化していることにお気づきでしょうか・・・・。

 

水面が蛍光を発していませんか・・・?

 

アオダモはエスクレチンaesculetine や配糖体フラキシンfraxin 等を含み解熱剤として用いられてきました。

マルバアオダモの枝からも化学物質が出て、水面の色を変化させているようです。

因みに、アオダモ材は狂いが少なく、床柱、箪笥、野球のバット、ラケットや傘の柄など

実に多くの用途があります。

 

きれいに刈り取られたヨシの原の、あちこちにある小さな池がみえます。

何を見つけたのか、好奇心の強い元高校生たちが覗き込んでいます。

もちろん私も加わります。

 

新緑の斜面林に囲まれた湿地、小さな池・・・

 

「背びれのところに黄色い模様があるので、オイカワです」

魚に詳しい田中君の解説でした。

 

7〜8尾のオイカワの群れ・・・、こんな山中の止水にいるとは・・・?

 

5〜6尾のメダカも泳いでいました。

都心の水域では大部分が北米から帰化したカダヤシなので、日本産のメダカに出合ったのは久しぶりです。

 

背に淡い黄白色に光る筋があるメダカ・・・

 

雑木林のコナラの樹陰でお弁当を食べ

山道を多峯主山へと登りましたが、その途中でも、雑木林内で黄金色のシマヘビを発見

幼虫を運ぶムネアカオオアリに出合いました。

出くわした生物を、何でもそのまま観察する、記録する、撮影する、楽しむ・・・、何が出てくるか分からない面白さ、

小生が自然観察大学や埼玉大学で現在おこなっている観察会の源泉はここにあります。

 

左-雑木林内で黄金色のシマヘビ。 右-ヒノキの下で見つけたムネアカオオアリ

 

足元に咲くヒメハギ、地味なカンアオイの花

ヤマガラ、シジュウカラ、メジロにも出合いながら、

雨乞池をへて多峯主山の山頂にたどり着きました。ここもまた素晴らしい景観です。

峰々の新緑は夏緑樹林、黒っぽくみある林はスギ林、自然をマクロに観察するにはこの季節が最適です。

下の写真の中央、もっとも遠くにみえる山は武甲山、そして眼下の平地には新興住宅地が広がります。

 

多峯主山の山頂 (271m)から西の方を眺めた景観

 

山頂(271m)での記念撮影 (田中君提供)

 

ゴツゴツした岩の多い山頂付近には心地よい風が吹き抜けており

クロアゲハ、キアゲハが飛び交い、岩にはヒメアカタテハが好んで止まります。

久しぶりにトカゲも出現。佐藤君がタックルして捕らえたものの、尾を自切して逃走。

 

山頂付近でよく見かけるヒメアカタテハ

 

下山時も、これまた道草をくいつつ、実に多様な生物に出合いました。

谷津田地形の湧水の流れる湿地では、ミヤマカワトンボやオオルリを観察。

林内ではチゴユリやホウチャクソウの群落も・・・・。

お蔭様で充実した観察会となりました。

 

ガイド役の金林君に感謝しつつ

来年の4月29日の再会を約束し、飯能駅で散会となりました。

 


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