フィールドエッセイ「旅と自然の心象スケッチ」  第1400回

カナリーヤシで繁殖した二種類の鳥

2012年3月22日


 

マスコミが総力あげての報道が目立ちます。

その一つが、2012年5月21日の「金環日食」でした。

 

「太陽、月、地球の順に一直線に並べば、

月が太陽光線をさえぎるのはごく当たり前のこと。そんなことで世間が騒ぐなんて、気が知れません」

な〜んて野暮なことを言ってはいけないのです。

 

いつだったか、歴史の先生に尋ねた時のことを思い出しました。

「先生、12月31日の次の日が1月1日。その次の日が1月2日。なぜ1月1日を元旦だといって大騒ぎするんでしょうか・・・?」

「唐沢さんは、全く歴史が分かっていませんね。もちろん12月31日の次の日が1月1日なのですが、

人も物も、金も、何もかもが元旦という日に向かって動くんですよ、それが人の歴史なんです。」

なるほど、歴史は人がつくりだしていくもの、世間もまたそんなもの

斯くして2012年5月21日 の金環日食は、

日本史に記録される

ことになりました。

 

金環日食、キンカンニッショク、キンカン、kinkan 、金柑・・・・、と マスコミがリフレーン。

金柑を食べながら金環日食を見よう、なんて人が笛や太鼓で踊りだす・・・、確かに歴史の先生の言う通りです。

 

もちろん私も金環日食をみました。

我が家から徒歩3〜4分、家内と二人で次男の住むマンションへと急ぎ、

5階のベランダから東の空を見上げました。

 

太陽をみるための専用メガネを探しましたが、どこも完売。入手できませんでした・・・、が

この日の市川は、幸いなことに薄曇り。肉眼でもはっきりとエクリプス eclipse が観察できました。

 

左より、7時24分33秒、36分41秒〜金環日食〜、43分11秒に撮影。

太陽と月の天体ショーです。

 

左は7時44分頃の東の空。右は日食が終わってやや明るくなった市川の街です。

 

金環日食の4〜5分の間

鳥たちに異変が起こりました・・・、

本当は異変かどうかは不確かなのですが・・・

 

マンションのベランダの前を、

ハシブトガラスが、大騒ぎをしながら北東の方角に飛んでいくのです。

二羽で鳴きながら、空中で絡み合うようにして追いかけあい、

その後を2羽、3羽と移動して、全部で13羽を数えました。

 

よ〜く見ると、その中の一羽が、「何と、何と、3本足のカラス」ではありませんか・・・・

歴史の吉凶を占う重要なカラスの行動を記録せねば・・・・

な〜んてことを想像しながら、カラスの

観察も楽しみました。

 

3月22日もまた、歴史がつくられました。

東京スカイツリーのオープン日は、前日から一番乗りをめざして並んだとか、

「会社を休んで駆けつけました」、といった輩が続出、

人も物資も、金も、情報も、東京の下町に向かって

収斂していくから不思議です。

 

「世界で最も高い電波塔だからと言って、それが何なんですか・・・?」

な〜んて言ってはいけません。

行きたい人は行けばよい

それだけです。

 

世間が騒ごうと

騒ぐまいとに関わらず、

歴史に残る、残らないとに関わらず、

多くの人や生物が、この地球で誕生し、命を輝かせ、生と死を繰り返しています。

誉められることもなく、けなされることもなく、妬まれることもなく・・・

人のつくりだした歴史とは無縁の世界で、普通の生活を送っています。

 

4月14日

南房総の鴨川の一本の木で

とても面白い鳥の生態を観察しました。

一本のカナリーヤシの木に、2種類の鳥が繁殖していたのです。

「2種類だろうが、3種類だろうが、それが何だっていうんだい・・・?」

な〜んて野暮なこと、言いっこなしです。

つくられた歴史とは無縁の世界にあって、

「面白いものは面白い」

と私が思っている・・・

自然観察の

根本です。

 

海岸に面した広い駐車場にある一本のカナリーヤシ

この大きく伸びた葉の下の、褐色をした膨らんだ部分で、2種類の鳥が、同時に、繁殖中なのです。

 

左はセグロセキレイ〜餌をくえて運んできます。子育ての最中です。

右はハクセキレイセキレイ〜巣材をくわえて入って行きます。巣造りの山中です。

 

ハクセキレイとセグロセキレイという

同じセキレイ科の鳥が、おなじカナリーヤシの木で繁殖しているということは、

トヨタとニッサンが、同じ工場で生産を始めたようなもの、

ソニーとパナソニックが机をならべて仕事をしている

そんな風に私には見えるのです。

 

「絆」、「きづな」、「キヅナ」と

マスコミがお題目のように唱え、それを日本中で斉唱しています。

それが世間というものですが、しかし、「絆」って本来の意味をご存じですか?

「家畜と家畜を縛りつけておくこと、これが絆です」

と、ある人が教えてくれました。

 

「私は家畜なんかじゃありません」

な〜んてこと言ったら、もちろん歴史の流れに逆らうことになります。

しかし、ロジャー・パルバースさんが言いました。

 

「僕はユダヤ人ですが、ホロコーストによって600万人以上ものユダヤ人が虐殺されました。

しかし、その数字が表すことを僕もうまく消化できません。それが一人であっても多いと思うからです。」

「何万人が死亡したとか、何兆円の損害がでたとか、何万トンのガレキがでたからといって、

統計的な災害や数字をいくら唱えてみたところで本当のところは分からない・・・」

「宮沢賢治がなぜ、東北の震災を描かなかったのか・・・

賢治の物語をみて下さい。主人公が子供、あるいは動物であることが実に多いです。

・・・・非常にパーソナルな話ばかり。賢治は一人ひとりの大きな悲しみが痛恨に堪えない・・・

彼はひとりの悲しみで精一杯だったのではないかと思うのです・・・」

Roger Pulvers :

作家・東京工業大学世界文明センター長、映画「戦場のメリークリスマス」助監督。

英訳に『英語で読む 銀河鉄道の夜』(ちくま文庫)など。

 

人によって塗り替えられていく歴史という虚像を楽しみつつも

一人の人として、また、地球上の生命体の一員として、二本足で大地に踏ん張って、

目の前のカナリーヤシの木のセキレイをウォッチングできる・・・・

セキレイを通して自然を垣間見つつ、歴史の虚像を愉しむ・・・

自然観察の醍醐味を実感するこのごろです。

 


蛇足

4月中旬より、しばらくフィードエッセイを休んでいましたが、

ちょっとした長旅から帰ることができました。

ようやく1400回を数えました。

今後とも宜しくお願いします。


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