フィールドエッセイ「旅と自然の心象スケッチ」  第1179回

南房総の海岸で、ヤマショウビンを観察!!

2010年2月28日


 

人生には、

平凡でごく普通の日と、

一生に一度というような、「特別の日」とがあるようです。

 

2010年2月28日の午後は、

滅多にない、特殊な日であったように思います。

地球の反対側にあるチリで地震が発生し、この日の午後、刻々と日本列島に迫ってきていました。

まさかこの日に、こんなことが起こるとは、誰も予想できなかったかと思います。

 

舞台は、南房総の江見太夫崎の漁港の近くの磯でした。

 

 映画「ライアンの娘」の舞台になったイギリスの海岸に似た、江見太夫崎の磯です。

刻々と津波が迫っていることなど、とても考えらませんでした・・・・

 

ドラマは、

1羽のセグロカモメが、

真っ赤な魚の鰓の部分をつついているところから始まりました。

 

江見太夫崎の磯で、1羽のセグロカモメが、真っ赤な魚の鰓をつついていました・・・

 

「あっ、残念、デジカメの電池切れになっちゃった・・・」

セグロカモメが食べているのを、上空からトビを横取りしようと急降下してきました、が

電池切れで撮れません・・・、よくあることです。

 

「臼井(博之)さん、悪いけど車のドアー開けてもらえる!」

大急ぎで車にもどり、ドアーを開け、予備の電池と交換し、堤防へと戻りました。

その間、おそらく2〜3分でした。

 

「先生、今、へんな鳥がいましたよ・・・、カワセミよりもずっと大きいんです、大きさはハトぐらいかな・・・?

赤くて奇麗なくちばし、羽が青っぽいんです・・・、何ですか?」(臼井さん)

「・・・・・、・・・・」

 

「双眼鏡で、このセグロカモメを見張ってたんです。すると、視野を鳥が横切ったんです。

そこの堤防の下から飛び立って、セグロカモメの手前を通過して磯の岩場に止まったので、しっかり観察できました。

赤いくちばしで、丸っこいカニのようなものをくわえてました・・・?」(臼井さん)

「何だろう? カワセミに似て、ずっと大きい・・・?。赤いくちばしだった・・・?

臼井さん、昼間っから夢でもみてるんじゃないの・・・? 」

その時は、臼井さんが観察したものの価値など

考えてもみませんでした。

 

堤防から見下ろす磯では、

魚の鰓を横取りしたトビが、上空へと飛び去ってしまい、

それと入れ替わるように、1羽のクロサギが、何と、眼下の磯に舞い降りたのです。

そっと階段を下り、磯の岩場に身を隠しながら、シャッターチャンスを待ちました。

小魚を狙うシーン、捕食するシーンなど、

何枚か写真におさめました。

 

磯に降り、何枚かクロサギの写真を撮りました・・・、が

この日、この時間に、磯には降りないよう、テレビや新聞で報道されていました・・・

 

チリ地震津波の第一波の後に、

第二波、第三波と、次々とやってくることなど、その時は知りませんでした。

「知らない」ということは、実に恐ろしいことです。

何枚かクロサギの写真を撮り、ふと堤防の方に目をやると、

フワッ、フワッと飛ぶ、ハトくらいの大きな鳥が目に入りました。

 

海岸の岩場には、トベラやグミなどが生えており

その鳥は、グミのシュートにとまって横を向いたのです。

「赤いくちばし、青い背、黒い頭・・・・」

「お〜、臼井さんが見たという鳥は、これだったのか・・・!」

思わず2〜3枚、シャッターを切ったところで、姿を消してしまいました。

 

この鳥、どう見てもカワセミではありません。

 

14時44分00秒〜18秒まで、

時間にしてわずか18秒のことでした・・・・、いったいこの鳥は何者なのか・・・?

 

いったん別荘に引き揚げ、

図鑑をみると、直ぐに判明しました、

日本では滅多にみられないヤマショウビンでした。

 

16時のテレビのニュースによれば、

津波警報のため、東京湾アクアラインは通行止めとのこと

東京に戻るには京葉道路しかない、となると、大渋滞が予想されます。

そこで、思い切って時間をずらして、遅くになってから帰宅することになりました。

 

そこで、もう一度ヤマショウビンが見たくなり、太夫崎の磯に行ってみました。

何と、2時44分に観察したのとまったく同じ小枝にとまっていました。

ちょっと接近してみると、飛び立って電線に止まり、磯の岩に止まり、大きく翼を伸ばしたのです。

 

翼を伸ばしたヤマショウビン

翼の先の方の裏側に、はっきりとした白い斑紋が認められました。

 

このヤマショウビン、

翌日の朝、この場所で、地元の武田健治さんが確認したものの、その後は姿を消してしまいました。

2月28日の午後〜29日の朝までの、「短期間の滞在」のようです。

 

3月20〜21日にも探してみたものの、見つかりません。

そろそろ公表してもいいのではないか、ということで、このエッセイで紹介することになりました、が

「ヤマショウビンがいる」、安易に公表してしまうと、たちまちにして数百人、

いやいや、数千人のカメラマンがやってくる・・・

ネット社会の恐ろしさです。

 

たまたまチリ地震津波のため、

釣り人も、磯遊びの人もいなかったことが、ヤマショウビンが滞在した理由の一つかも知れません。

たまたまデジカメの電池が切れたこと、臼井さんの双眼鏡の視野を横切ったこと、

いくつかの偶然の要素が組み合わさって

記録に残る観察となりました。

 

日本では、一回だけ、福井県で繁殖したことがあり、

千葉県では数年前に、谷津干潟で一回だけ飛来した記録があります。

今回のヤマショウビンの観察は、県内で2回目の記録です。

 

2月28日は、クスクス会にとっては特別な日、

ヤマショウビンの日

となりました。

 


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